いよいよ入国の儀式。イミグレーションでは政治的理由からパスポートにスタンプは押されない。イスラエルのように必死になってノースタンプをお願いする必要はない。パスポートに残らない国というのはなぜか悪いことをしているようなそんなクソガキ時代のワクワクが込上げてくる。バゲージクレームでザックを受け取るとエクスチェンジでキューバのお金を買う。ここキューバのおもしろいのが国民の使う通貨(人民ペソ)と外国人の使う通貨(兌換ペソ)が分かれているところ。つまり二重経済であり、同じ場所にいながらキューバ人と私たち旅行者は全く別の世界にいるのだ。
兌換ペソを買ってとりあえずダウンタウンを目指す。空港からの移動は、一律料金の空港タクシーがある。これが意外に高い。バスもあるそうだが、まだ人民ペソを持っていない。空港から少し歩いて、道端で流しを拾うという裏技も考えたが、今回は素直に空港タクシーに乗ることにした。
タクシーの窓から飛び込んでくるキューバの日常。社会主義を象徴するプロパガンダの看板、50年前の車が普通に走っているこの風景を見ると、まさにタイムスリップしたかのような不思議な感覚に陥る。流れる風景に見惚れていると、ふと今夜の宿探しをしなければいけないことを思い出した。この糞暑い中でザックを背負いながら宿を探すのは辛い。いつもなら自分の足で探し回るか、事前に集めた情報で探すのだが、珍しく寡黙なタクシー運転手だったので試しに尋ねてみた。
「安い宿を知っているか?」すると彼はうなづき、
「ホテル カリビアン」
と一言だけつぶやいた。なぜか妙に気に入った。冷静になればタクシーの運転手が進める宿に行くというのは如何なものかと思うし、だいいちい渋谷の道玄坂にあるホテルのような名前が怪しい。しかしここはカリブ海に抱かれた島キューバ。そこがどんなホテルかはわからない。その「カリビアン」といういかにもな響きに惚れた私はどうしてもそこに泊まりたくなった。ちょうどそのとき、あの有名な革命広場が目の前に現れ、私は本当にキューバにいることを実感してうれしくなった。